ドルフィン・トレーニングについて

ホイッスル ハンドシグナル 強化の原理 好子と嫌子 罰の副作用
トレーニングの必要性 対提示手続き ハズバンダリー シェイピング





ホイッスルについて



皆さんの中にはイルカのトレーナー達が首からホイッスルをぶら下げているのを見た ことがある方も多いのではないでしょうか? あのホイッスルをトレーナー達はどのように使っているのでしょう。 今回はこのホイッスルについてお話したいと思います。

イルカ達が何か「行動」をした直後にご褒美(例えばお魚)をあげれば、 その時にしていた「行動」をその後、頻繁に行うようになります。 (これを専門用語で「オペラント条件付け」といいます。)

イルカがジャンプした後で、そのイルカにお魚を毎回あげるようにすれば、 そのイルカは人が現れると頻繁にジャンプするようになります。

しかし行動の中にはその行動の直後にご褒美をあげられない場合があります。 例えば、イルカに「ただの」ジャンプではなく、「高ーい」ジャンプを教えるとしま しょう。 ご褒美として「お魚」を直接使う方法で考えてみると・・・ イルカが一番高くジャンプした瞬間に、 お魚を「エイッ」っと投げてジャンプしているイルカの口の中に直接放りこまなけれ ばなりません。しかし実際にはコントロールの問題で難しいですよね。

さあ、そこでイルカ達には訓練の初期の段階で、 事前に以下の手続きを行っておきます。

トレーナーはイルカにお魚をあげる時に一度ホイッスルを「ピッ」っと鳴らします。 そしてその後でお魚をあげることにします。 これを何度も繰り返すと、最初はイルカ達にとって無意味な「ピッ」いう音が、 次第にお魚をもらえるという情報を持った嬉しい嬉しい「信号」に変わってきます。 (これを専門用語で「レスポンデント条件付け」といいます。)

この手続きを事前に行っておけば高いジャンプを教えるのは簡単です。 イルカが跳躍して一番高いときにホイッスルを「ピッ」っと鳴らしておいて、 帰ってきた時にお魚を上げればイルカは「そうか!高くジャンプすればピッが鳴るん だ!」と学習するわけです。この時点でイルカにとってのご褒美は「お魚」だけでは なく、なんと「ピッ」という音も含まれてくるのです。

結論を言いますと、あのホイッスルの「ピッ」という音はイルカ達に何が正しい行 動だったかを伝える為に使用しています。 人間の場合でいうと「正解!」とか「それでいいんだよ」にあたります。 何気なく吹いているように見えますが、実はホイッスルのタイミングは、トレーナーの素質があるかないかの大きなポイントにもなるほど重要なのです。

皆さん参考になりました? では今回はこの辺で・・・

(藤井 勝)




ハンドシグナルについて



トレーナー達はいろいろなハンドシグナルを使って、イルカ達にトレーナーがどう いった行動を望んでいるかを伝えます。

イルカは決して視力はよくありませんが、物理的に区別できれば、ハンドシグナルを きちんと見分ける事はできます。
ではイルカ達はどうやって、個々のハンドシグナルの意味を理解してゆくのでしょ う。

前回と同様に「ジャンプ」で考えてみましょう。 ジャンプをした時に毎回お魚を上げれば人が現れると頻繁にイルカがジャンプするよ うになるということは前回書きました。

さて、ここでは「人が現れる」ということがジャンプのシグナルになっています。

「人が現れた時に」→「ジャンプすれば」→「お魚ゲット!」

注)上のA→B→Cは「オペラント条件付け」の基本的な考え方で、 A状況B行動C結果を表しています。
Aという状況において、Bという行動をすれば、Cという結果が出るということです。 「オペラント条件付け」については第3回のコラムでもう少し詳しくお話します。

「人」が見えることが視覚的なシグナルとなり、「ジャンプ」という行動を引き起こ します。 (もちろん、人がいなくてもジャンプする時はありますが、ジャンプする目的が「遊 び」であったり、他のイルカに追いかけられて逃げ惑っている時であったりするわけ で「お魚」をもらう目的ではありません。)

シグナルを「人が現れる」から「人が手を上げる」に変えていくには以下のように行 います。

@トレーナーがイルカの前に登場。もちろんイルカはジャンプします。そしてご褒美 ゲット!
Aイルカ達はまたご褒美をもらうためにジャンプします。さあ、この時に手を上げま す。イルカはとにかくジャンプし、わけもわからずにご褒美ゲット!
Bさてこの辺から少しづつ、イルカ達に考えてもらうことにします。 トレーナーが手を上げている時に、イルカ達がジャンプした時は必ずご褒美をあげ、 手を上げていない時のジャンプにはご褒美をあげないことにします。

「人が現れた時に」 「ジャンプしても」 「お魚もらえず・・・」 (残念)
「人が手を上げた時に」 「ジャンプすれば」 「お魚ゲット!」 (ラッキー)

C最初は手を上げていようがいまいがガンガンにジャンプしますが、次第に手を上げ ている時のジャンプする回数が多くなり、手を上げていない時のジャンプの回数が少 なくなります。
D最終的にイルカ達は「人が手を上げた時に」→「ジャンプすれば」→「お魚ゲット !」ということを学習します。

つまり、ホイッスルでイルカ達に何が良かったかを伝え、ハンドシグナルトレーナーの求めているものをイルカ達に伝えているのです。
ハンドシグナルは、言葉が通じない両者が生み出した、コミュニケーションを取る手 段の一つなのです。

(藤井 勝)





強化の原理



「強化の原理」は我々の日常生活に溢れています。例えば、大好きな人に電話をかけたら喜んでくれたから何度もかけるようになったり、車を買う為にお金を貯めたら欲しい物が手に入ったからまたお金を貯めるようになったりします。
我々の普段の行動を少し科学的に第3・4回のトレーニングコラムで一緒に考えていきましょう。そしてこの行動の原理を知る事が、動物とのコミュニケーションを行う際に非常に役に立ちます。まず基本的な行動の原理について述べます。

行動することで、その動物(人)にとって、何か良い事が起こったり(例@)、悪いことがなくなったりすると(例A)、その行動は繰り返されます(その行動は「強化」されて いるといいます)。逆に、行動する事で、その動物(人)にとって、何か悪いことが起こったり(例B)、良いことがなくなったりすると(例C)、その行動はあまり起こらなくなります。(これを「罰」といい、その行動は弱化されているといいます)

例を挙げますので参考にしてください。これは非常に重要なことなのでぜひ覚えてください。

強化の例)
例@:イルカの場合
人がいる時に ・・・ ジャンプすると ・・・ お魚が貰えた (ジャンプする行動が強化されます)
例A:人の場合
うるさい目覚まし時計の音 ・・・ スイッチを押すと ・・・ 音が止まる (スイッチを押す行動が強化されます)
罰の例)
例@:犬の場合
人がいる時に ・・・ ゴミ箱をあさると ・・・ 叱られた (ゴミ箱をあさる行動が弱化されています)
例A:人の場合
犬がゴミ箱をあさっている時に ・・・ 叱ると ・・・ 犬が逃げて戻ってこなくなった (犬を叱る行動が弱化されています)


さて、強化の原理ではたいてい、「〜のとき、〜したら、〜になった」という関係が成立しています。「〜のとき」というのは行動が起こる直前の環境の事で、先行条件といいます。「〜したら」は行動。「〜になった」は行動の直後に起きた環境の変化のことで、結果といいます。先行条件と行動と結果の関係を行動随伴性といいます。英語に訳した時の頭文字が(Antecedent)(Behavior)(Consequence)なので、行動随伴性を分析する事を別名、ABC分析といいます。

強化の原理では、ただ行動を増やすだけではなく、先行条件の元での行動を増やすこ とに注意してください。 つまり例@でいうとイルカは24時間ジャンプし続けているわけではありません。 まわりに人がいる時にその頻度が高まるということです。 例Aでいえば人は目覚し時計のスイッチを同様に24時間押しつづけているわけではあ りません。 うるさい音が鳴った時に押すだけです。 例Bは人がいる時にゴミ箱をあさる行動が減るということです。人がいない時はどう なるかはわかりませんが・・・(笑) 例Cは飼い主さんの視点から見ました。ゴミ箱をあさっている大好きな犬を叱ったら 帰ってこなくなっちゃいました。次に何か犬が悪い事をしているのを見た時、あなた は自信を持って叱れますか?

第3回のコラムはなるべく皆さんにわかりやすいようにチャート式にしてみました。 今回皆さんに知ってほしいことはある行動は決して無条件に起こるわけではなく、実 はある先行条件の元で起こるということです。最後にもう一つだけ強化の例をあげま しょう。

仕事帰りに居酒屋に寄って、ビールを注文するととても美味かった! その後、ビールを注文することが多くなった。(ビールを注文する行動が強化されて います)
居酒屋で主人と目があった時に ・・・ 「生一丁」というと ・・・ ビールが出てくる

居酒屋のご主人と昼間に通りで出会ってもビールは頼まないでしょう?



(藤井 勝)





好子と嫌子



皆様、年末はどのように過ごされますか?
僕は12月に入るといつもそうなのですが、大晦日の紅白歌合戦が気になりだします。 理由はいろいろありますが・・・パラオで暮らしている僕にとって・・・

@日本で今どういった歌が流行っているのかを知ることのできる唯一の番組であるということ
A小林幸子さんの衣装を確認
B他におもしろそうな番組がない


さて、ABC分析を行ってみましょう。 僕はほぼ毎年、年末にはNHKの紅白歌合戦を見ます。つまり「紅白を見る」という行動は強化 されています。

大晦日の夜に テレビのスイッチを入れると サブちゃんの笑顔

「サブちゃんの笑顔」はこの番組が間違いなく紅白歌合戦であるということを教えて くれます。

行動を強化する(増やす)「何か良いこと」を好子といいます。好子はビールのよう に飲み物や食べ物かもしれないし、ジョークを言った時に友達が笑うといったような 他人からのリアクションかもしれません。はたまた望遠鏡で夜空を見る行動は星が見 えるという好子によって強化されている。つまり、好子とは、行動の直後に現れる と、その行動を強化するモノやコトすべて。簡単に言えば誰もが喜びそうなモノやコ トのす べてということになります。

この場合、「サブちゃんの笑顔」は僕にとって好子です。 僕が大晦日の夜に「テレビのスイッチを入れる」という行動を強化する好子になって います。 さてこういう場合はどうでしょう?

紅白を見ている時に トイレに行くと 小林幸子を見逃した!

僕は今後、紅白を見ている間はあまりトイレに行かなくなるかもしれません。 つまり紅白を見ている時の「トイレに行く行動」は弱化されたわけです(罰)。

行動を弱化する(減らす)「何か悪い事」を嫌子といいます。嫌子は他人からぶ たれたり、小言を言われたりすることかもしれないし、ジョークを言った時に友達が ため息をつくといったような他人からのリアクションかもしれません。 つまり、嫌子とは、行動の直後に現れると、その行動を弱化するモノやコトすべて。 簡単に言えば、誰もが避けたがるモノやコトすべてということになります。

前回のコラムにもありましたが、人や動物の行動はその行動の直後の結果に影響を受 けます。
行動の後にいいこと(好子)が起これば、その行動は繰り返され(強化)、
行動の後にイヤな事(嫌子)が起これば、その行動はあまり起こらなくなってきます (弱化:罰)
ですからトレーニングの「コツ」はいい行動の後に、 その動物にとって何か喜びそうな物(好子)をあげる、ということができます。 どうですか、簡単でしょう? 「そんなことは知ってるよ」という皆さん。でもこれがとても大事なことなんです よ。

ではある行動(問題行動)を減らしたければどうしましょう?やっぱりその行動の直 後にイヤな事(嫌子)があれば動物だって学習します。その行動はきっと減ります・ ・・が! ちょっと待ってください。僕は動物を罰する事で教えていく事は決してお勧めしませ ん。 それに皆さんの中で喜んで動物を叩いたり、叱ったりしている人は一人もいないと思 いま す。実は動物を叱ったり、たたいたりしなくても問題行動を修正する方法はいくらで もあるのです。 次回はそのことを中心に−罰の副作用−についてお話したいと思います。

(藤井 勝)





罰の副作用について



行動の直後に嫌子が出現したり、嫌子が増加したりすると、その後、その行動の頻度が減少することを「罰(弱化)」といいます。

皆さんはご自分の飼っている動物が何か問題行動をした時、どのように対処していらっしゃいますか? 僕は子供の時に家で犬を飼っていたのですが、その時のしつけ方法はもっぱら「体罰」でした。 まわりの大人達から「これが犬をしつける唯一の方法」と教えられていました。 確かにその犬は「怖い」人の言うことを良く聞きました。しかしその犬はどこか怯えた様子でその「怖い」人と接していたことを覚えています。僕の言うことは全く聞きませんでしたが、かといって叩いたり脅したりはしたくありませんでした。まわりの大人達は僕が犬を怒った時に「それでいいんだ」と僕を褒めてくれました。僕は犬に言うことを聞かせたいがために、まわりの大人達に褒められたいがために、より「怖い」人にならなくてはいけないと思ったのでした。

あれから20年が経ってイルカのトレーナーになってみて思うことは、現代のアニマルトレーニングというものが非常に科学的に、合理的に、そして計画的に行われているということです。

我々の施設ではイルカ達の行動に対して、体罰(Physical Punishment)を一切使用しません。他の罰(例えばトレーニングセッション中にイルカ同士でケンカをはじめた場合など、バケツを持ってプールから離れます。これをタイムアウトといいます)についても使用はかなり制限しています。これには「かわいそうだから」という人道的な理由以外にきちんとした科学的な理由があるのです。何故我々が罰をほとんど使用しない方法を選んだのか?

今回は罰の副作用についてお話しましょう。

副作用@)
繰り返し与えられる「罰」に人も動物も慣れていきます。つまり効かなくなるのです。 よくあることですがいつも怒っているお母さんの「小言」は子供にとってだんだん「嫌子」にならなくなります。「慣れ」が生じるからです。効かない時点で「罰」は「罰」でなくなります。 小言が効かなくなりますから次はもっと強い罰(例えばひっぱたくとか)それにも慣れたらもっと強い罰とどんどんエスカレートします。これが「虐待」につながるケースもあるのです。

副作用A)
人も動物も罰が与えられる「状況」を学習します。ABC分析でいうところのA(先行条件)ですね。 つまり「この人がいる時にゴミ箱をあさると怒られて叩かれるけど、あの人だけの時なら大丈夫」とか。「家の中では怒られるけど、家の外なら大丈夫」とか。きちんと区別するのです。「怖い」人がいないところでは問題行動はなくならないどころか、よりひどくなる場合も多いのです。

副作用B)
「逆襲」などの危険性が出てきます。対象動物が大動物(キリン・ゾウ・イルカ・シャチ等)の場合はさらに危険になります。 過度な罰の使用は動物を攻撃的にします。動物の中での行動随伴性はこのような感じでしょうか。

「罰を与えられた時に」 「人を攻撃すれば」 「罰を与えられなくて済む」

副作用C)
動物を無気力に、臆病にしてしまう場合があります。 飼い主さんもトレーナーもそうですが、「罰」の使用が許されると頻繁にそれを使用するようになります。 何故でしょうか?人は相手の「良い所」を見つけるより、「悪い所」を見つける方がたやすいようですね。行動するといつも嫌子が返ってくる。(何をしても怒られる)そんな随伴性ではその動物の元気がなくなるのも当然です。何をやってもうまくいかなければ誰だっていずれは無気力で臆病になって全く動かなくなってしまいます。

副作用D)
罰によって学習するのは「良い行動」ではなく、「罰を回避する行動」です。皆さんの子供の頃を思い返してみてください。親が家にいない時に何かを壊してしまったとします。例えばお皿とか。割れたお皿をどこか見つからないように隠そうとしたことありませんか?

もう一度繰り返しますが、「罰を与えられて学習すること」は「罰を回避する行動」でしかありません。その結果が副作用A〜Dになります。

質問@「でも動物が何か悪いことをしたら一体どうするの?」
質問A「イルカは頭いいから怒らなくてもわかるかもしんないけど、犬はねー・・・」
質問B「副作用はわかったけど・・・、でも上手く「罰」を使えば問題ないんじゃないのー?」
質問C「でも罰を使わないんじゃ・・・結局、餌で釣るしかないんじゃないの?」

こんな声もちらほらと聞こえてきそうです。ここは動物の訓練において非常に重要なテーマです。ゆっくり時間をかけて皆さんと一緒に考えていきましょう。ではまた次回お会いしましょう。

(藤井 勝)





トレーニングの必要性



皆様こんにちは。今回より藤井勝にかわり、私、千田文子がお届けします。トレーニングについては、まだまだ勉強中の私ですが、自分自身の復習も兼ねて皆様にお届けできればと思っています。よろしくお願い致します。
さて今回は「トレーニングの必要性、トレーニングとは何か?」についてです。

何故、トレーニングをするのでしょうか?
水族館ではショーのため、私たちのような施設なら、お客様がイルカ達と触れ合ったりするため、 もちろんこれらも含まれますが、トレーニングにはまた違った重要な必要性があるのです。

1. 身体的運動のため
2. 精神的な刺激のため
3. 協力的な行動
4. コミュニケーションの場

1.身体的運動のため
近頃は、どちらの園館でもその飼育動物のニーズにあわせ、飼育施設の広さ、飼育環境を少しでも近づけようと努力はしていますが、やはり太平洋の海やアフリカのサバンナなどにはかないません。食糧、気候、繁殖のために回遊することもなければ、天敵から回避することもないでしょう。このため、絶対的に運動量が不足するので、トレーナーはトレーニングを通して様々な方法(ジャンプしたり、速く泳いだり)で動物達に適度な運動をする機会を与えています。

2.精神的な刺激のため
これは飼育下の動物が、自然環境にある様々な刺激に出会わなくなるからです。飼育下では他の動物や生物、同種の他の群れに出会うことも少ないですし、天敵に出会うこともないでしょう。毎日、十分な食糧だけが与えられ、まわりの環境も変わることが無ければとても退屈な日々になると思いませんか?人間に置き換えて考えてみてください。物が何もない小さな部屋に一人だけ入れられ、食糧だけが与えられる、仕事もテレビも電話も音楽も何もないこんな生活なんて考えられないですよね。動物達も同じです。トレーナーはトレーニングする事によって、動物達の生活においていい刺激になるよう努めなければならないのです(環境の変化、別のプールへの移動、動物のパートナーの変更、おもちゃを与える・・・etc)。勿論、皆様がドルフィンスイムをしたり、ダイビングをしたりして一緒に遊ぶ事も、彼らにとっては「刺激」の一つに入るのです。

3.協力的な行動
これは動物達の健康チェックや、動物達の移動に重要です。採血や胃液を採取する時に、自発的な協力により、動物達に採取しやすい姿勢でじっとしていてもらったり、となりのプールへの移動時に、喜んで移動してくれたりすれば、押さえつけて無理やりということからのストレスがなくなります。作業時間も短くなりますので、トレーナーにとっても、動物達にとっても安全に楽に行うことが出来るのです。

4.コミュニケーションの場
最後に、トレーニングとは園館などの施設にいる動物に限らず、ご家庭で飼われているペットでも、人間と動物が、同じ環境でお互いに楽しく生活し、接していくために必要なことを教えることなのです。

動物達のショーや人と触れ合うのを見て、『動物達が芸をさせられて、かわいそう!!』という方も少なくないと思いますが、今回のトレーニングコラムで少しでもご理解いただけたら、うれしく思います。



(千田 文子)





レスポンデント条件付け@



みなさま、強化の原理を覚えていますか?

「動物(人)が、行動した直後に→何かが起こる→その行動は繰り返される」

この時の「何かが起こる」にあたるのが、好子で、動物(人)が好きな、喜ぶ物や事、すべてでしたよね。
(忘れてしまった!!という方は、1月の第4回のトレーニング基礎知識を、読み返してみてください。)

トレーニングを行うには好子が必要不可欠なのです。
今回はこの好子をたくさん作ることのできる対提示手続きについて、もう少しお話したいと思います。

トレーナーはこの好子をトレーニングの始めの段階でできるだけ多く確立しておく必要があります。
なかなか好子が見つからない!!という場合に、第1回のトレーニング基礎知識で、ホイッスルについてお話した手続きを利用します。

動物(人)のもともとの好子(生得性好子といいます。例:お魚)と何の意味も持たない「刺激」や「出来事」などを動物(人)に時間的に近づけて、繰り返し提示することで最初は動物達(人)にとって何の意味も持たなかった「刺激」や「出来事」も好子(習得性好子といいます。例:ホイッスルの音)になるという非常に便利な手続きです。例えば、ホイッスルを吹いた後に魚を与える。

これが、対提示手続きです。
 
生得性好子 他の好子と対提示しなくても好子である「刺激・出来事・条件」のこと
例:食べ物 / 水
習得性好子他の好子と対提示されることで、好子として機能を持った「刺激・出来事・条件」のこと
例:お金 / ホイッスルの音


例えば・・・
生きるのに必要な食べ物(生得性好子)を買う時に使うのは、お金(習得性好子)です。

赤ちゃんがお金を貰っても自分の欲しい物を、お金を使って買った経験が無いので、1万円 を貰っても喜ばないと思います。しかし、成長の過程で、1万円で自分の好きな物が買えることを学習すれば、1万円を貰った時点で嬉しくなります。

何の意味を持っていなかったお札の紙 が、自分の好きな物と対提示されることにより、お札の紙が好子となります。
このように自分の経験により、何の意味も持っていなかった刺激意味のある刺激へと価値が変わる原理を
「価値変容の原理」といいます。(習得性嫌子につきましても同様です。これにつきましては、対提示手続き Aでお話致します。)


ご家庭で動物を飼われている方で、餌を取り出すときに開ける『バリッ』という袋の音や、餌の入れ物を床に置くときの『カタン』という音に反応して、もの凄い勢いで駆け寄ってくる動物の姿を目にしたことはありませんか?
それではここで問題です。

おやつを取り出す袋の音は、動物にとって生得性好子?習得性好子?どちらでしょうか。

・・・この文章を読みながら「習得性好子!」と思わず叫んだ方に3000点!「正解です!!」

『バリッ』の音は始めは何の意味も無かったはずなのに、この音の後に必ずおやつが貰える事により、おやつ(生得性好子)と『バリッ』の音が対提示されたことによって、音は動物にとっての習得性好子となりました。

これも対提示手続きにより、この音はその動物の好子になっています。

また、せっかく買ってきたボールにうちの犬は無反応!あーあ、もったいない!!と思っている方はいらっしゃいませんか?
このような問題も解決できるのです。おなじように、犬に、餌やおやつを与える時、そのボールを一緒に見せることを、繰り返し行ってみてください。
犬はそのボールを見ると駆け寄って来るでしょう。
その後に、ボールでの遊び方を教えてあげればいいのです。

うちの施設でも同じようにイルカ達の好子がたくさんあります。

** 胸鰭にタッチする ** ** イルカのくちばしの下を2回ポンポンと触る ** ** おもちゃを与える **


なぜ、できるだけ多くの好子を確立しておく必要があるのでしょうか?

魚、食べ物がない状態、トレーニング中以外でも、動物がいい行動をしたら褒めてあげることができる。
魚、食べ物も動物のお腹がいっぱいの時や、体調が良くない時には、好子にならない時がある。
(逆に嫌子になる可能性もあります。)
何種類も好子があると次に与えられる好子が何かわからないので動物にとって刺激的となりやすい。


また、たくさんの好子を持つ事によって、その好子と結びついているトレーナーは、動物達にとって大きな好子となっていき、動物達との信頼関係につながります。
トレーニングをスムーズに進めるために、大きな役割をはたすのです。

私たちも、日常生活において、いつも笑顔で、元気で、楽しい、やさしいと、たくさんの好子を持った人になりたいですね。





レスポンデント条件付けA



前回は対提示手続きで好子をつくる方法、理由についてお話しました。
今回は同じ対提示手続きによる、習得性嫌子についてお話したいと思います。

嫌子とは・・・?
オペラント条件づけ

動物(人)が、行動した直後に
何かが起こると
その行動は起こりにくくなる

この何かが起こるにあたるのが嫌子で、動物(人)が嫌いな、嫌がる物や事すべてでしたよね。
この嫌子を確立する手続きは好子の時と同じです。
動物(人)のもともとの嫌子(生得性嫌子といいます。例:歯の治療時の痛み)と何の意味ももたなかった『刺激』や『出来事』も嫌子(習得性嫌子といいます。例:治療の際の音)になる訳です。
 
生得性嫌子 他の好子と対提示しなくても嫌子である「刺激・出来事・条件」のこと
例:身体の痛み / 恐怖心
習得性嫌子他の好子と対提示されることで、嫌子として機能を持った「刺激・出来事・条件」のこと
例:「ダメ」の言葉 / お化け屋敷の看板


例えば、私たちの生活の中でしたら、歯医者でよく聞く『ウィ〜ン』という音がこれにあたります。この音(中性刺激)を聞くだけで、眉間にしわをよせて、しかめ面をしてしまう人は多いのではないでしょうか?この『ウィ〜ン』という音 も、元々は何の意味も持たなかったはずですが、歯医者での痛みや恐怖心(生得性好子)と同時に提示されたことで、『ウィ〜ン』の音は私達にとっての習得性嫌子となりました。

また、私の実家で飼っている猫は、小さい時に、父にあやまって掃除機でシッポの部分を吸い込まれてしまいました。よっぽど怖かったのでしょう、いまだに掃除機の音を聞いただけで、すっとんで逃げていきます。
このように強烈な生得性嫌子の場合は、たった一度、同時に提示されただけで、強く結びつき学習してしまうこともあり、恐怖症やトラウマになってしまうこともあります。

一度、恐怖症やトラウマのように、強く学習してしまうと、この習得性嫌子を元の無意味な刺激に変えるには学習してしまった習得性嫌子だけを、少しずつ程度の弱いものから単独で提示する方法や、再度、対提示手続きを用いて、この嫌子を好子と少しずつ、同時に提示する方法などがあります。

[先ほどの歯医者の例でいえば『ウィ〜ン』という音だけを少しずつ小さい音で聞かせたり、同時に好子となるチョコレートを与えたりといったかんじです。 これは、この音を聞いても怖いことは、嫌な事は何も起こらないということを学習させるためです。]

というような手続きがありますが、かなりの時間がかかります。
ですので、トレーニングにおいては、嫌子はできるだけ使用しない方がいいのです。 罰の副作用でお話したように、嫌子は使い過ぎたり、嫌子がエスカレートしたりということが多々ありますし、動物が嫌がる物や、事がたくさん出てくる
トレーニングは、ここにも対提示手続きが働いて、トレーニング自体が嫌子になってしまうからです。

トレーニングは好子のたくさんある、楽しいもので、動物が喜んで行うものでなければならないと思います。
トレーナー、飼い主は動物に習得性嫌子を作らないようにする事を心がけ、事前に防がなくてはなりません。

周りに、動物の怖がりそうな物はありませんか?
上から落ちてきそうな物はありませんか?
足元に動物はいないですか?
自分では、嫌子を与えようとしていなくても、あやまって上から物が落ちてきて・・・ 動物に躓いて・・・しっぽをふんで・・・なんてことで自分を習得性嫌子にしてしまう事もあります。みなさん、動物と触れ合うときは十分気をつけましょう。
これを読んで、『じゃ、動物に注射をしたり、つめを切ったり、これらも動物が嫌がるのだから、してはいけないの??』と疑問をもたれた方、それは、違います。対提示手続き・オペラント条件付けを上手に使って、これらの行動を、動物に嫌がらず協力してもらうことを教える事ができるのです。このトレーニングをハズバンダリートレーニングといいます。次回はこのハズバンダリートレーニングについてお話したいと思います。

お楽しみに!







ハズバンダリー・トレーニング@



皆様、こんにちは。日本は梅雨真っ最中という時期でしょうか?パラオは変わらず、暑い、暑い日々が続いています。さて、今回のコラムHusbandry training(ハズバンダリー・トレーニング)ですが、皆様はご存知でしたか?

「うちの猫は、爪がすごく伸びているのに、なかなか切らせてくれない!!」
「うちの犬、予防接種のときいつも吠えて、暴れて大変!!」


こんな理由で、頭を抱えていらっしゃる方に是非、知っていただきたいのです。
動物達はなぜ嫌がるのか?
まずはここに疑問をあててみましょう!

日々日常生活で学習してきた私達にとって、爪が伸びたら、爪を切る、病気にならないように予防接種する、という行動はあたりまえかもしれませんが、初めての動物達にとってはどうでしょうか?

・知らない場所 この中のいくつかが、急に動物の前に現れる!!
・知らない人
・見た事のない物
・聞いたことのない音
・感じた事のない感触
・経験した事の無い事


どうです、誰だって怖いですし、嫌がりますよね。
まずは、私達トレーナーはその動物のことをよく観察し、知らなければなりません。
生態、生活環境、個体べつの好奇心、警戒心の比率など、情報は多いにこしたことは無いでしょう。そして、トレーナー自体に動物が警戒心を持っていてはトレーニングをうまく進める事はできません。まずはトレーナーとの信頼関係を築いていくことが重要な事です。
(これは5月のコラムでお話したレスポンデント条件づけ:好子の手続きを使って築いていけますね。)

経験した事のないことを、急に要求される怖いですよね、Husbandry Trainingを行う前に 動物がその環境に慣れ、何が起こるのか、何をすればいいのか、そして作業に協力してもらう事を教えなければなりません。

もうひとつ重要になるのが、動物が、知らない場所、知らない人、見たことのない物、聞いたことのない音、感じたことのない触感、これら、動物の目の前に現れる刺激に慣れ、鈍感化することです。(これをDesensitization《脱感作》といいます。)

このDesensitizationは6月のコラムお話した、レスポンデント条件付け:嫌子での恐怖、嫌子を取り除く手続きとほぼ同じです。
動物が新しい刺激に対して嫌悪感、恐怖心を持たないよう、レスポンデント条件付け、オペラント条件づけを使って、動物にその刺激を少しずつ提示していくという手続きです。

例えば上の猫の場合
最初にこの猫を観察します。
次に猫の爪を切る場面を想像します。

@ 誰が切りますか? 信頼関係を築きます。
切る人に対するDesensitization(脱感作)が必要です。
A 猫はどういう体勢ですか? おすわり?
1番爪を切りやすい体勢はおすわり?
手足に触れても大丈夫?
手足にふれても大丈夫ですか?
伏せの方がいい?
その体勢を保てるように教えなくてはなりません。
B 何を使いますか? 爪切りの提示
爪きりを使う事を教えます。
人がどう動くかを教えます。
切る時の人の動きへのDesensitizationが必要です。
猫さん、良い子ですね♪
爪を嫌がらずに切れるようになりました!!

これらのことを教えてから、爪を切るという行動を少しずつ提示していきます。オペラント条件付けを使って、動物が落ち着いているときを上手に褒めてあげましょう。
動物が刺激に対して落ち着いていられる時間を少しずつ延ばしていき、最終的にはその作業が終了するまで協力してもらいましょう。

そして、作業する場所を変えてみましょう。家でも病院でも、どこでも爪が切れるようになればいいですね。これが最終目標です。
決して急いではいけません。急いで動物に嫌悪感、恐怖心を与えれば、またスタート地点に逆もどりなのです。

これを読んで、

『いままで動物が言う事をきかないと思ってきたけど、それは動物の何が起こるかわからない嫌悪感や恐怖心などの理由があるのですね。』

『時間はかかるけれども、動物に協力することを教える事ができるのですね。』

という意見が増えればうれしくおもいます。

私達の施設でもこれらの手続きを利用してイルカ達の健康管理や動物の移動を行っています。
次回はその様子とともに、より具体的にHusbandry training(ハズバンダリー・トレーニング)をお届けしたいと思います。

(千田 文子)






ハズバンダリー・トレーニングA



皆様、こんにちは。今回は私達の施設で実際に行っているHusbandry Training の様子をお届けします。前回のコラムとあわせて読んでいただくと、よりご理解いただけると思います。


《採血》
@ 採血を行いやすい体勢をイルカに教えます。私達の施設では尾鰭に通っている血管から採血をするため、トレーナーがイルカの尾鰭を持つ姿勢で行っています。
A イルカがこの体勢で落ち着いている時にホイッスルを吹きます。
B トレーナーが尾鰭を持つ時間を少しずつ長くしていきます。
C イルカがこの体勢で採血に十分な時間、落ち着いていられるようになったら、今度は獣医が採決を行う事を想定して、もう一人がトレーナーの横に立ち、ABを行います。
D もう一人が横に立っていても、イルカがこの体勢で採血に十分な時間、落ち着いていられるようになったら、尾鰭にそっと手を触れてみます。そして、イルカが落ち着いてればホイッスルです。再度ABを行います。
E 今度は、血管部分を探して、触れてみます。そして、イルカが落ち着いていればホイッスルです。再度ABを行います。
F 最後は血管部分を指や爪で押したりして、少しずつ刺激を与えていきます。そしてイルカが落ち着いていればホイッスルです。再度ABを行います。
G 以上の手続きを行って実際に採血を行います。


《胃液採取・補水》
@ 胃液採取・補水を行いやすい体勢をイルカに教えます。私達の施設ではトレーナーが水中に入れた足の上にイルカが胸鰭を置き、トレーナーに接近した状態でイルカが口を開いて行っています。
A イルカがこの体勢で落ち着いている時にホイッスルを吹きます。
B イルカがこの体勢でいる時間を少しずつ長くしていきます。
C イルカがこの体勢で胃液採取・補水に十分な時間、落ち着いていられるようになったら、今度はチューブを少しずつ呈示していき、ABを行います。
D チューブを呈示しても、イルカがこの体勢で胃液採取・補水に十分な時間落ち着いていれば、チューブを少しずつイルカの中へ入れていきます。そして、イルカが落ち着いていればホイッスルです。再度ABを行います。
E 今度はチューブをイルカの口腔内奥にあててみます。そして、イルカが落ち着いていればホイッスルです。再度ABを行います。
F イルカの食道へとチューブを少しずつ入れていきます。そして、イルカが落ち着いていればホイッスルです。再度ABを行います。
G イルカの食道へとチューブを入れる長さを少しずつ長くする度、ABを行い、最後には胃液採取・補水に十分な長さのチューブをいれます。
H 以上の手続きを行って実施に胃液採取・補水を行います。


いかがですか?Husbandry Training(ハズバンダリー・トレーニング)を通して、このように私達はイルカ達と信頼関係を保ち、安全にイルカ達の健康管理を行っています。確かに、時間はかかりますが、急がないで下さい。前回もお話したように、急いで動物に嫌悪感や、恐怖心を与えてしまうとスタート地点へ逆戻りです。焦らず、少しずつ行う事が最終的には一番の早道なのです。

(千田 文子)






シェイピング@



Shapingとは直訳すると、形作るという意味です。
今回は動物に行動を教え、行動を形作る方法についてお話します。
すでに起こっている行動の頻度増やす方法はすでにオペラント条件づけでお話しました。

行動する⇒強化する(好子を呈示する)⇒行動の頻度が増える でしたね?

では、一度も起こったことのない行動を動物にしてもらうにはどうすればいいでしょうか?



してもらいたい行動に少しでも近い行動をしたら
強化する
行動の頻度が増える
してもらいたい行動に前回より近い行動をしたら
強化する


を繰り返し、少しずつしてもらいたい行動に近づけていきます。

このようにして、してもらいたい行動に少しでも近い行動を強化しながら、少しずつ強化の基準をあげ、してもらいたい行動に近づけていくことをShaping(Successive approximation)といいます。


■□■ 例えば、犬に『お座り』を教える場合 ■□■


@ Scanning
[ 動物の行動を観察し、してもらいたい行動に少しでも近い行動が起きるのを待って強化する方法。]

犬の行動を観察し、犬がおしりをつけて座った時に強化する


ATargeting
[ 動物のある体の部分をトレーナーの手やターゲットと呼ばれる印に、タッチすることを教えて、少しずつしてもらいたい行動を誘導する方法。]

犬がトレーナーの手に犬の鼻をタッチしたら強化する
トレーナーの手を上に動かし、犬が鼻をトレーナーの手につけ自然と犬のおしりが下がったら強化する
次はトレーナーの手をもっと上に動かし、犬の鼻も上に動き自然と犬のおしりが地面についてお座りの状態になったら強化する


(トレーナーは自分の手に犬の鼻がついてくるのを利用して、犬の鼻をどの位置に動かせば、犬が自然とお座りの状態になるかを考えて誘導する)


BModeling
[ 動物にしてもらいたい行動を物理的に少しずつ作る方法。]

犬のおしりを触って強化する
犬のおしりを少し下に押して強化する
犬のおしりを押してお座りの状態をつくって強化する



CMimicry
[ 観察(模倣)学習といい、動物にしてもらいたい行動を見せて少しでも同じ行動をしたら強化する方法。]

すでにお座りを学習している犬のお座りの行動をみせて同じ行動をしたら強化する



などという方法があります。これらの方法とshapingの手続きを上手のつかえば、一度も起こった事のない行動も教えることができるのです。

@・Aの方法は小型、大型を問わず動物のトレーニングによく使われています。動物を無理やりという方法でないのでストレスもかかりにくいでしょう。

Bの方法では、小型動物は可能で、一般的によく使われているのを目にしますが、多少ストレスもかかるでしょうし、大型動物やイルカのような水中で生活をしている動物に使うのは難しいですね。

Cは動物の習性によっては、この方法では時間がかる場合や、学習できない場合もあるでしょう。バンドウイルカは模倣行動をよくしますので、実際にうちの施設でもこの方法で教えた行動があります。

Shapingには、強化のタイミングはもちろん重要ですが、行動の基準のあげ方など、知っておくとより上手にshapingにて動物の行動を作ることができるテクニックがあります。

次回はそのテクニックについて、実際に私の施設でのトレーニングの様子(@・Aの方法)をご覧頂ながらお話ししたいと思います。では、また次回お会いしましょう。

(千田 文子)






シェイピングA

今回は前回お話したShapingを使って、より上手に行動を作ることができるテクニックについてお話しましょう。
まずは、私の施設でのトレーニングの様子です。

@ターゲットにタッチする事を強化する Aターゲットにタッチする事を強化する B少しターゲットの位置を高くしてターゲットにタッチする事を強化する
C少しターゲットの位置を高くする D少しずつターゲットの位置を高くする E少しずつターゲットの位置を高くする
F少しずつターゲットの位置を高くする G少しずつターゲットの位置を高くする H少しずつターゲットの位置を高くする


このように前回もお話ししましたが、少しでもしてもらい行動に近い行動をしたら強化しながら、少しずつ強化の基準をあげ、してもらいたい行動に近づけていくのです。 さて、知っておくとより上手に行動を作ることができる方法とは・・・。

プランをきちんと立てましょう

基本的なことですが、トレーナーは動物に行動を教える前に教える行動の『完成形』やその完成形に近づけるための『方法』『段階』を考え、しっかりと頭の中で描き作っておく必要があります。

基準・段階は少しずつあげましょう

Jumpの例でいくと、ターゲットにタッチすることを学習したからといって急にターゲットの位置をトレーナーの肩の高さ、水面から1メートル以上にもあげてしまうと、きっと動物はあまりにもの高さにしりごみしてしまったり、あきらめて全く動かなかったり、失敗してしまうでしょう。一度大きな失敗をすると、嫌悪感や恐怖心につながる事もあり行動の完成形までかえって遠まわりになってしまいます。動物が高さの変化の気づかないぐらい少しずつ高さをあげて成功の機会をたくさん与えて、いつのまにかJumpしていたというのが理想ですね。

行動は一つずつ教えましょう

例えば、jumpの行動を前向きの飛び方で、高く飛ぶように教えたい場合、前向きで高く飛んでくれるのを待っていたら、なかなか強化してあげられないですよね。ターゲットの誘導によって教えようとしても、初めから角度と高さを同時に誘導し、強化するのは難しいです。
そこでまずは角度、前向きにjumpする時だけ強化しましょう。きちんと飛ぶ角度を学習したら、次に高さ、高く飛んだときに強化しましょう。 というように部分ごとにわけ強化してあげると強化する部分も具体的に示せ、充分強化してあげられるでしょう。
新しいものを動物に提示するときは教えている行動の基準を少し下げてあげましょう。

いくら充分に学習している行動でも、新しい場所で行ったり、一緒にいる動物のパートナーをかえたりすると、その環境に慣れていないために、できていた行動ができなくなることがあります。私達だって仲のいい友達とカラオケによく行っていても、いきなり大観衆のまえに立たされて歌うのではいくら18番の歌でも、なかなかいつものように歌えないでしょう。
なので、新しい物・環境を動物に提示するときは、いつもより行動の基準を少し下げてあげましょう。
今の方法で動物の行動の学習が進まなければ、別の方法を考えましょう

前回お話したように行動を教える方法は1つではありません。
イルカがたまたまJumpした時に強化したり(scanning)上の写真のようにターゲットを使って誘導したり(targeting)今行っている方法でなかなか成果が出ない時はもう一度プランを練り直して別の方法で教えてみましょう。

1つの行動は1人のトレーナーが教えましょう

いくら事前に話し合っても、強化のタイミングや基準の上げ方には個人差があります。動物が迷わないように、その行動を学習するまでは1人のトレーナーが教える事が望ましいでしょう。

トレーニングは動物がいい成果を上げた時、調子のいい時に終わったほうがいいでしょう

終わり良ければ、すべて良し!というように、トレーニングの終わりをいい状態で終わると、動物には強化された最後の行動がのこるので、次にトレーニングを行う時にもいい状態で行えるでしょう。

トレーニングゲームをしてみましょう

トレーニングゲームとは、2人でトレーニングが体験できる楽しい簡単なゲームです。1人が動物役、もう1人がトレーナー役になり、トレーナー役の人が動物役の人に好きな行動をこれまでお話したshapingを使って教えるものです。強化するときに使うホイッスルは、瞬間的に音がでる物なら、手をうつ音でも、声でもなんでもいいでしょう。またこのゲームを何回も行うなかで、強化のタイミングやshapingの基準の上げ方などが、身に着き、うまくshapingを使えるようになるトレーナーをshapingしてくれるゲームなのです。 私達の施設では実際にone day trainerという1日トレーナーの仕事を体験できるアクティビティでお客様に、このトレーニングゲームを体験して頂いています。
体験後、みなさんshaping方を理解し、トレーナーが強化するタイミングの重要さ、行動を教えられる動物の立場を体験されトレーニングに興味をもたれます。

是非みなさんにもトレーニングゲームをお試し頂きたいのです。

最後にセンダフミコのトレーニングコラムは今回で終了となります。
皆様、長らくお付き合い頂誠にありがとうございました。このトレーニングコラムを通して、トレーニングの原理が人と動物だけではなく、人と人との関係においても深く関係している事を知っていただき、ご興味を持っていただけたら嬉しく思います。
ありがとうございました。



(千田 文子)